荒川 緑水晶
arakawa green Rock crystal ( quartz )


秋田県大仙市(旧協和町)荒川鉱山百目石坑産 緑水晶



↓ 酸処理をした緑水晶




〈解説〉

【鉱物の発色】
 無色透明のコランダム(Al2O3)に、微量の不純物としてチタン(Ti3+)が入ると青色を呈したサファイアになり、微量のクロム(Cr6+)が入ると紅色のルビーになります。鉄(Fe2+,Fe3+)やニッケル(Ni2+),マンガン(Mn2+)なども含めたこれらの遷移金属は、特定波長の光が当たると励起状態になりやすく、その波長の光を吸収してしまうため、透過して目に入る光(透過光)は吸収光の余色(補色)に変化します。 ちなみに、Fe2+は黄色の光を吸収し余色は青色になることと、Fe3+は青色の光を吸収し余色は黄色になることが知られています。(両者の鉄イオンを多量に含んだ昔の一升ビンが濃い緑色だったのもこの発色です。)

【色つき水晶】
 水晶の発色原因は主に不純物の混入と放射線による結晶格子欠陥によるもので、主要構成元素によるものではありません。紫水晶、黄水晶、煙水晶、黒水晶の発色原因はいずれも、不純物欠陥に電子(または正孔)が捕獲され特定のエネルギー準位をもつもので、紫水晶、黄水晶は鉄イオン、煙水晶、黒水晶はアルミニウムイオンが関連しています。

 @紫水晶(アメシスト Amethyst)
 紫水晶の化学分析の結果、良質な水晶の約100倍に当たる100ppmオーダーの鉄分が含まれていることは分かっています。しかし、量が少ない2価の鉄イオン(Fe2+=青色に発色)と、普通に存在する3価の鉄イオン(Fe3+=黄色に発色)では、紫色の発色を説明できません。
 最近、半導体材料用に発達した放射性元素の微量分析(ppb=0.001ppm単位)で、紫水晶には放射性元素が僅かに含まれていることが分かりました。
 その結果から、放射性元素から放出されるγ(ガンマ)線で、3価の鉄イオン(Fe3+)から電子(e-)が飛び出して、一時的に4価の鉄イオン(Fe4+)に変わると、SiO4らせん体が切断された結晶欠陥内で、珪素イオン(Si4+)の代役(置換型)として、切れていたSiO4らせん体をつなぐ形で準安定化することができます。結果的にFe4+は常に励起した状態で緑色の光を吸収し、透過光は余色に当たる赤紫色に変わります。そして弾き出された電子(e-)は周囲の結晶空隙に残っているFe3+に吸収されて2価の鉄イオン(Fe2+)に変わり、元からあったFe2+と共に青色を呈するため、両者のバランスで赤紫〜紫色に発色するものと考えられています。

 A黄水晶(シトリン Citrine)
 黄水晶も紫水晶と同様、3価の鉄イオン(Fe3+)が着色原因になっていると考えられます。 黄水晶は主に花崗岩の晶洞で、紫水晶にに伴って産出することが多いのですが、紫水晶と同一条件下で晶出しながら色が異なるのは、黄水晶の近くに放射性元素が存在せず、γ(ガンマ)線を照射されることなく、鉄イオンが3価のままで結晶欠陥内に取り込まれているためと考えられます。Fe3+は青色の光を吸収し易く 透過光は余色にあたる黄色となります。
 しかし、天然に産する黄水晶は少なく、は紫水晶を加熱して黄色に変色させたものが多く出回っています。紫水晶はSi4+置換型の4価の鉄イオン(Fe4+)と、周辺の狭い結晶空隙に侵入した2価の鉄イオン(Fe2+)で紫色を呈しているますが、これに熱を加えると、不安定(準安定)だったFe4+が電子(e-)を吸収してFe3+に戻り、Fe2+もe-を奪われてFe3+に変わるため、γ(ガンマ)線が照射される前の黄水晶の構造に戻って黄色に着色すると考えられます。

荒川産 緑水晶
 以上の原因を考え合わせると,Fe3+の他に相当量のFe2+を含んでいた場合、黄色と青色が混ざった緑水晶になりますが,残念ながら荒川鉱山の緑水晶の発色は鉄イオンによるものではないようです。
 荒川鉱山の緑水晶を観察すると,結晶の先端部に緑色が分布しており,細かな粒子も観察できます。この緑色の細かな粒子は緑泥石と考えられています。
 荒川鉱山では、緑色凝灰岩中に頁岩と砂岩の互層を母岩とし,その断層に沿って鉱脈が走っています。母岩の一部には緑泥石ができており,そこに生成した水晶は,緑泥石を乗せるようにして結晶を成長させたものと思われます。したがって,水晶の発色というよりは,緑泥石のインクルージョンと考えたほうがよさそうです。取り込まれ方によっては,「ファントム」と呼ばれるものもあり,収集家には大変珍重されています。

緑泥石を含んだ緑石英の脈(vein)





《参考》

B煙水晶(Smoky quartz)
 煙水晶は、アルミニウムイオン(Al3+)が結晶欠陥に入り、放射性元素から出るγ(ガンマ)線によって黒っぽく発色したものです。 煙水晶は、花崗岩の晶洞から産する黒水晶に近いものから、石英脈鉱床の中心から産する淡褐色の水晶まで、色の濃淡は様々ですが、共通している点は、長期間にわたり放射性元素の影響を受けていたことです。
 3価のアルミニウムイオン(Al3+)が、珪素イオン(Si4+)と完全に置き換わるAl-同形置換でSiO4らせん体の一部を形成すると、不足する電荷を補ってイオン半径の小さいリチウム(Li+)イオンが近傍の結晶空隙に入ります。放射性元素から放出されるγ(ガンマ)線でAl3+から電子(e-)が飛び出すと、不安定な4価のアルミニウムイオン(Al4+)に変わりますが、逆に電子を放出することでイオン半径が更に小さくなり、Si4+の空隙にスッポリと納まって準安定化すると推測されます。e-を受け取ったLi+はリチウム原子に変わりますが、Al4+は常に励起した状態で広範囲の波長の光を吸収するため、全体に黒っぽく見えます。遷移元素ではないアルミニウムは、強制的に電子を取り去ると正孔(hole)が形成され、特定の波長だけではなく広範囲の波長の光を吸収すると考えられています。
 煙水晶を加熱すると色があせて消えることが知られています。これは不安定(準安定)だったAl4+が電子(e-)を吸収してAl3+に戻り安定化するためです。(アルミニウムイオンの他にかなりの量の鉄イオン(Fe3+)を含んでいると黄水晶になることもあります。)

C紅水晶(Rose quartz)
 紅水晶はバラ石英とも呼ばれ、完全結晶化することはほとんどありません。紅水晶には、チタン(Ti4+)が透明な水晶の約10倍含まれていることが確認されています。
 4価のチタンイオン(Ti4+)が珪素イオン(Si4+)と部分的に置換し、SiO4らせん体の一部を構成していたと考えられ、イオン半径の大きなチタンイオンが妨害して、完全な結晶を形成することができないものと考えられます。(成分的にはSiO2の一部がTiO2に入れ代わっている。)
 つまり、Si4+の完全置換型で結晶構造に組み込まれたTi4+が、青〜緑色の光を吸収し余色として薄い紅色となります。また、チタンの量が増えるほど赤みを増して結晶は更に不完全になります。

Dレモン水晶
 レモン水晶は硫黄により黄色に色づいた水晶です。結晶の間に硫黄が入ったために黄色に色づいて見えます。(結晶自体は普通の珪素イオンからなる水晶です。)